一人社長こそ知っておきたい「企業型DC」——退職金・節税・老後資金を、会社の仕組みで一度に整える
お役立ち情報
公開日:2026/7/27
更新日:2026/7/27
「役員報酬から社会保険料と税金を引かれ、残りから自分の老後資金を貯める。会社に退職金制度なんて当然ない——」
一人会社やご家族だけの小規模法人を経営されている方から、こうしたお声をよく伺います。従業員のいない会社では、福利厚生や退職金制度は「自分には縁のないもの」と感じられがちです。
ですが、従業員がいない一人会社でも導入できて、しかも税制面で大きな効果を持つ制度があります。それが「企業型確定拠出年金(企業型DC)」です。
本コラムでは、行政書士の立場から、一人社長・小規模事業者にとっての企業型DCの要点を、メリットだけでなく注意点も包み隠さず整理します。
企業型DCとは——「一人会社でも入れる」って本当?
企業型DCは、会社が掛金を拠出し、加入者本人が自分で運用して老後資金をつくる企業年金制度です。「日本版401k」とも呼ばれます。
「企業型」と聞くと大企業の制度に思えますが、厚生年金に加入している法人であれば、社長お一人の会社でも導入できます。代表取締役ご本人が加入者となる、いわば「自分のための企業年金」をつくれるわけです。
導入方法には、大きく二つあります。
事業主拠出型:会社が役員報酬とは別に掛金を上乗せして拠出する
選択制:役員報酬の一部を、給与として受け取るか掛金に回すかを本人が選ぶ
一人会社で多く選ばれるのは、報酬の枠内で始められる「選択制」です。
一人社長にとっての主なメリット
1. 掛金が会社の損金になる/給与課税を受けない
事業主拠出であれば掛金は会社の損金に。選択制で報酬の一部を振り替えた分は、給与として課税されないため、所得税・住民税の対象から外れます。
2. 社会保険料の負担が軽くなる(選択制の場合)
選択制で掛金に振り替えた部分は社会保険料の算定対象からも外れるため、会社負担・個人負担の双方が軽くなります。ただし、この点には後述の重要な注意があります。
3. 運用益が非課税
通常、金融商品の運用益にはおよそ20%の税金がかかりますが、企業型DCの中での運用益は非課税で再投資できます。
4. 受け取るときも税制優遇がある
老後に一時金で受け取れば退職所得控除、年金形式で受け取れば公的年金等控除の対象になります。
要するに、「入口(拠出時)・途中(運用時)・出口(受取時)」の三段階すべてで税制優遇が用意されている——これが企業型DCの最大の特徴です。会社の仕組みとして、退職金・節税・老後資金づくりを一度に整えられる制度、とお考えください。
正直にお伝えする、注意点とデメリット
ここが、当事務所が最もお伝えしたい部分です。メリットだけを見て導入すると、後で「こんなはずでは」となりかねません。
● 社会保険料が下がる=将来の給付も下がる
選択制で社会保険料が軽くなるということは、その分、将来受け取る厚生年金や、傷病手当金・出産手当金・育児休業給付などの給付額も下がることを意味します。一人会社であれば、判断するのも影響を受けるのもご自身ですから、この点を理解したうえで掛金額を決めることが何より大切です。
● 原則60歳まで引き出せない
老後資金づくりの制度である以上、途中で自由に引き出すことはできません。当面の事業資金や生活資金まで掛金に回してしまわないよう、余裕資金の範囲で設計する必要があります。
● 手数料と運用リスクがある
口座管理手数料などのコストがかかり、運用は自己責任です。選ぶ商品によっては元本割れの可能性もあります。
● 受け取り方で税金が変わる
出口(受取時)の税負担は、受け取る方法やタイミング、他の退職金との兼ね合いで変わります。「出口設計」まで含めて考えておくと安心です。
他の制度とも比べて選ぶ
一人社長の老後資金・節税の選択肢は、企業型DCだけではありません。掛金が全額所得控除になる小規模企業共済や、個人で加入するiDeCoなどもあります。それぞれ、引き出しやすさ・上限額・運用の性格が異なり、併用できる組み合わせもあります。
大切なのは「どれが得か」ではなく、ご自身の事業状況・資金繰り・ライフプランに、どの制度をどう組み合わせるかです。
制度改正で、いまが始めどきの一つ
企業型DCは、いま制度が使いやすくなる方向で改正が進んでいます。2026年4月にはマッチング拠出の掛金制限が撤廃され、中小企業向けの「簡易型DC」も通常の企業型DCへ統合されました。さらに、企業型DC単独の拠出限度額は、現行の月額55,000円から月額62,000円への引き上げが予定されています(施行時期は政令で定められる予定です)。
非課税で積み立てられる枠が広がる方向にあり、一人社長が老後資金づくりを制度に乗せる好機といえます。
導入の入口は、意外と手続きが多い
一方で、いざ導入となると、規約の整備、運営管理機関の選定、掛金設計、社会保険との整合など、確認すべき事項は少なくありません。「自分の会社に合うのか」「いくらから始めるのが適切か」の判断も、専門的な視点が要ります。
当事務所およびグループの合同会社kurasukeでは、一人会社・小規模事業者の企業型DC導入を、制度説明から手続き・運用開始までワンストップでご案内しています。まずは「自社に向いているかどうか」だけでも、お気軽にご相談ください。
本コラムは制度の一般的な解説であり、特定の金融商品の推奨や投資助言を行うものではありません。掛金額・税務・社会保険の具体的なご判断にあたっては、最新の法令および個別の状況をご確認のうえ、専門家にご相談ください。記載の制度改正内容・金額は執筆時点の予定を含み、今後変更される場合があります。
この記事を書いた人
篠原 博之
行政書士・AFP
行政書士しのはら事務所 代表
個人税理士事務所・中小企業の総務部長・税理士法人のIT担当の経験を経て独立
バックオフィスのDXに注力している。
登録番号:第2408248号|東京都行政書士会 新宿支部所属
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