新宿区高田馬場の行政書士事務所

観光庁が「実質民泊廃止」を容認?ゼロ日規制の方針転換と民泊事業者が確認すべきポイント 

旅館業・住宅宿泊事業

公開日:2026/6/30

更新日:2026/6/30

2026年6月、民泊制度に大きな方針転換

2026年6月、観光庁が住宅宿泊事業、いわゆる民泊について、自治体による「ゼロ日規制」を容認する方向を示したことが大きな話題になっています。

報道などでは「実質民泊廃止を容認」と表現されることもありますが、正確には、国が全国一律で民泊制度を廃止するという話ではありません。

今回のポイントは、自治体が条例によって、一定の区域・一定の条件のもとで、住宅宿泊事業の実施を大きく制限できる余地が広がるという点にあります。

特に注目されているのが、年間の営業可能日数を実質的にゼロにする、いわゆる「ゼロ日規制」です。

これまで観光庁は、住宅宿泊事業法の趣旨との関係で、ゼロ日規制には慎重な姿勢を示してきました。しかし、民泊の増加に伴い、騒音、ごみ出し、宿泊者のマナー、事業者と連絡が取れないといった近隣トラブルが顕在化してきたことから、方針を転換する方向が示されています。

そもそも住宅宿泊事業とは

住宅宿泊事業法に基づく民泊は、旅館業法の許可を取得せずに、住宅を活用して宿泊サービスを提供できる制度です。

ただし、通常のホテルや旅館と異なり、年間の営業日数は180日以内に制限されています。また、対象となる建物は「住宅」である必要があり、台所、浴室、便所、洗面設備といった設備要件に加え、居住実態に関する要件も問題になります。

制度の基本的な位置付けは、住宅を一時的に宿泊利用する仕組みです。そのため、ホテルや簡易宿所のように、年間を通じて宿泊営業を行うことを前提とした制度ではありません。

一方で、届出により比較的始めやすい制度であることから、都市部や観光地を中心に活用が広がってきました。インバウンド需要の増加もあり、民泊は宿泊供給の一部として一定の役割を果たしてきたといえます。

「ゼロ日規制」とは何か

ゼロ日規制とは、自治体が条例によって、特定の区域や期間における住宅宿泊事業の実施を制限し、結果としてその区域では年間を通じて民泊営業ができない状態にする規制を指します。

住宅宿泊事業法には、地域の実情を踏まえ、自治体が条例で住宅宿泊事業の実施を制限できる仕組みがあります。

たとえば、学校周辺、閑静な住宅街、別荘地、道路事情の悪い地域など、民泊の実施によって生活環境や教育環境に悪影響が生じるおそれがある場合に、区域や期間を定めて営業を制限することが考えられます。

これまでも自治体ごとに、平日の営業制限、学校周辺の制限、住居専用地域での制限などは行われてきました。

しかし、今回問題となっているのは、単なる曜日・期間の制限を超えて、実質的に営業可能日数をゼロにするような規制を、国がどこまで認めるのかという点です。

なぜ方針転換が起きたのか

今回の方針転換の背景には、民泊をめぐる近隣トラブルの増加があります。

民泊は、一般の住宅地の中で宿泊サービスが行われる点に特徴があります。ホテルや旅館であれば、宿泊施設として設計・運営され、フロントや管理体制も整備されていることが通常です。

一方、住宅宿泊事業では、戸建住宅やマンションの一室など、もともと生活の場として使われていた建物に、不特定多数の宿泊者が出入りすることになります。

その結果、次のような問題が生じやすくなります。

・深夜の騒音
・ごみ出しルール違反
・共用部での迷惑行為
・路上喫煙やポイ捨て
・宿泊者が建物や地域のルールを理解していない
・近隣住民が苦情を言っても管理者と連絡が取れない

特に家主不在型の民泊では、現地に管理者が常駐していないケースも多く、トラブル発生時の初動対応が遅れることがあります。

民泊制度が始まった当初は、宿泊施設不足への対応や、住宅ストックの有効活用という面が強調されていました。しかし、制度開始から時間が経過し、民泊が生活空間の中に多数立地するようになったことで、地域住民の生活環境との調整がより重視されるようになっています。

今回の観光庁の動きは、民泊を単純に増やす段階から、地域との調和を前提に管理する段階へ移ったものと見ることができます。

今回の動きは「民泊制度の廃止」なのか

今回の方針は、住宅宿泊事業制度そのものを廃止するものではありません。

住宅宿泊事業法は引き続き存在しますし、全国一律で民泊ができなくなるわけでもありません。

ただし、自治体の条例改正によって、特定の地域では新規の民泊届出が難しくなったり、既存の届出住宅でも営業継続に影響が出たりする可能性があります。

つまり、制度上は民泊が残っていても、地域によっては実質的に民泊営業ができないエリアが増える可能性があるということです。

この意味で、「実質民泊廃止」という表現はやや強いものの、特定エリアでは現実的な表現になり得ます。

影響を受けやすいエリア

今後、特に影響を受けやすいと考えられるのは、次のような地域です。

1. 閑静な住宅街

住民が静かな生活環境を求めている地域では、宿泊者の出入り、深夜の会話、スーツケースの音、タクシーの乗降などが問題になりやすいです。

特に第一種低層住居専用地域のように、住環境の保護が重視される地域では、自治体が規制強化を検討しやすくなる可能性があります。

2. 学校・保育所・教育施設の周辺

教育環境の保護も、条例による制限の根拠になりやすい分野です。

児童・生徒の通学路や学校周辺に不特定多数の宿泊者が出入りすることについて、地域住民や保護者から懸念が出るケースがあります。

3. 苦情が多発している都市部

新宿区、豊島区、台東区、京都市、大阪市など、すでに民泊の集中や近隣トラブルが問題になっているエリアでは、条例改正の議論が進む可能性があります。

特に、すでに自治体が独自ルールを設けている地域では、今回の観光庁の方針を受けて、さらに制限が強化されることも考えられます。

4. マンション・共同住宅

マンションでは、共用部の利用、オートロック、エレベーター、騒音、ごみ置き場などをめぐってトラブルが起きやすいです。

もっとも、マンションの場合は自治体条例だけでなく、管理規約による民泊禁止も重要です。

住宅宿泊事業を検討する場合は、自治体の条例だけでなく、管理規約で民泊が禁止されていないかを必ず確認する必要があります。

既存の民泊事業者はどうなるのか

既存の届出住宅について、条例改正後に直ちに営業できなくなるかどうかは、自治体の条例内容や経過措置によります。

一般的には、既に届出をしている事業者に対して、一定の経過期間を設けるかどうかが大きなポイントになります。

たとえば、条例施行後は新規届出を制限するが、既存届出住宅については一定期間の営業継続を認めるという設計も考えられます。

一方で、生活環境の悪化を防止する緊急性が高いと判断される場合には、既存事業者にも制限が及ぶ可能性があります。

そのため、既に民泊を運営している事業者は、次の点を確認しておく必要があります。

・所在地の自治体で条例改正の動きがあるか
・対象区域に該当する可能性があるか
・既存届出住宅への経過措置が設けられるか
・管理体制、苦情対応体制、騒音対策、ごみ対策を説明できる状態か
・旅館業法の簡易宿所や旅館・ホテル営業への切替えが可能か

特に投資用物件として民泊を運営している場合、条例改正により収益計画が大きく変わる可能性があります。

新規で民泊を始める場合の注意点

これから住宅宿泊事業を始める場合は、従来以上に慎重な事前調査が必要です。

これまでは、住宅宿泊事業法の要件、消防法令、建築基準法、マンション管理規約、近隣説明などを確認することが中心でした。

今後はそれに加えて、自治体の条例改正予定や、議会・検討会の動きも確認する必要があります。

特に、次のようなケースでは注意が必要です。

・住宅地の戸建てを民泊に転用する
・マンションの一室で民泊を始める
・学校や保育所の近くにある
・既に周辺で民泊トラブルが発生している
・自治体が民泊規制に積極的な地域である
・短期回収を前提に物件購入やリフォームを検討している

届出が受理されるかどうかだけでなく、届出後も安定して運営できるかという視点が重要になります。

旅館業許可への切替えは解決策になるか

住宅宿泊事業が難しくなる場合、旅館業法の簡易宿所営業や旅館・ホテル営業の許可を検討するケースも増えると考えられます。

旅館業法の許可を取得できれば、住宅宿泊事業の180日制限は受けません。

ただし、旅館業許可は住宅宿泊事業の届出よりも要件が厳しくなります。

用途地域、建築基準法、消防法、条例上の構造設備基準、フロント・管理体制、客室面積、換気・採光・照明、近隣説明など、確認すべき事項が多くなります。

また、住宅として建てられた建物を旅館業施設に転用する場合、建築基準法上の用途変更や消防設備の追加が問題になることもあります。

そのため、民泊が難しいからすぐに旅館業へ切り替えられる、という単純な話ではありません。

物件ごとに、旅館業許可が現実的に取得できるかどうかを確認する必要があります。

自治体側の実務にも影響

今回の方針転換は、事業者だけでなく自治体側にも大きな影響があります。

自治体がゼロ日規制を導入する場合、単に「民泊を禁止したい」という理由だけでは不十分です。

区域や期間をどのように定めるのか、その地域でどのような生活環境上の問題があるのか、既存事業者に対する経過措置をどうするのか、条例違反に対する罰則や指導方法をどう設計するのかなど、慎重な制度設計が必要になります。

また、過度な規制を行うと、適法に届出をして運営している事業者だけが撤退し、無届民泊が地下化するリスクもあります。

本来必要なのは、適法な民泊を排除することではなく、不適切な運営を是正し、地域住民の生活環境と宿泊需要をどう両立させるかという視点です。

民泊事業者が今すぐ確認すべきこと

今回の観光庁の方針を受けて、民泊事業者や物件オーナーは、少なくとも次の点を確認しておくべきです。

  1. 物件所在地の自治体条例

  2. 条例改正や検討会、議会での議論の有無

  3. 住居専用地域、学校周辺、文教地区などの該当性

  4. マンション管理規約や使用細則

  5. 苦情対応体制、緊急時対応体制

  6. 騒音、ごみ、喫煙、路上滞留への対策

  7. 旅館業許可への切替え可能性

  8. 投資回収計画の見直し

特に、これから物件を購入して民泊を始めようとしている場合は、事前調査なしに進めるのはかなり危険です。

「今は届出できる」ことと「今後も安定して運営できる」ことは別です。

まとめ

2026年6月に示された観光庁の方針転換は、住宅宿泊事業にとって非常に重要な転換点です。

今回の動きは、全国一律で民泊を廃止するものではありません。しかし、自治体が条例によって、地域の実情に応じた強い立地規制を行いやすくなる可能性があります。

その結果、特定の住宅地や学校周辺などでは、住宅宿泊事業が実質的にできなくなるエリアが出てくることも考えられます。

民泊は、今後も制度として残るとしても、単に届出をすれば始められる事業ではなくなっていくでしょう。

これからは、物件の立地、自治体条例、近隣環境、管理体制、旅館業への転用可能性まで含めて、事前に総合的な判断をすることが重要です。

民泊事業を検討している方は、物件購入やリフォームに着手する前に、所在地の自治体ルールと今後の規制動向を確認することをおすすめします。


この記事を書いた人

篠原 博之

行政書士・AFP
行政書士しのはら事務所 代表

個人税理士事務所・中小企業の総務部長・税理士法人のIT担当の経験を経て独立
バックオフィスのDXに注力している。
登録番号:第2408248号|東京都行政書士会 新宿支部所属

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