医療法人の「解散」は株式会社より難しい?後継者不足の理事長を悩ませる「残余財産」の行方と「出資持分」問題
医療法人
公開日:2025/11/24
更新日:2026/1/13
「私も高齢になり、後継者もいない。そろそろクリニックを畳んで、医療法人を解散しようと思う。残った財産は退職金代わりにして老後の資金に充てたい」
長年地域医療を支えてこられた理事長先生から、このようなご相談をいただくことがあります。しかし、結論から申し上げますと、医療法人の解散は、株式会社のように「解散登記をして、残った財産(残余財産)を株主で自由に分配して終わり」というわけにはいきません。
医療法は、医療の公益性を守るため、法人の解散事由や、解散後の財産の行き先について厳格なルールを定めているからです。
特に、平成19年(2007年)の医療法改正以前に設立された、いわゆる「持分あり医療法人」の場合、解散時の財産処分を巡って、思わぬ高額な税金が発生したり、財産が国に没収されたりと、予期せぬトラブルに発展するケースが後を絶ちません。
本稿では、多くの理事長先生が頭を悩ませる医療法人の「解散」の現実と、特に注意すべき「出資持分」の問題、そして解散以外の選択肢(M&A)について行政書士が解説します。
そもそも医療法人は簡単に「解散」できない
まず大前提として、医療法人は「いつでも自由に解散できる」わけではありません。医療法第55条により、解散できる事由(理由)は以下の通り厳格に定められています。
定款で定めた解散事由の発生
目的たる業務の成功の不能(事業継続が不可能になった)
社員総会の決議(社員の4分の3以上の賛成)
他の医療法人との合併
社員が欠けたこと(社員がいなくなった)
都道府県知事による設立認可の取消し
破産手続開始の決定
自主的に解散する場合、通常は「3. 社員総会の決議」を目指しますが、ここで問題となるのが、次に説明する「残った財産をどうするか」という点です。
見出し2:最大の難関!残った財産は誰のもの?「残余財産の帰属」
医療法人が全ての債務を支払い、解散した後に残った財産(残余財産)は、誰が受け取ることができるのでしょうか。これは、その法人が「いつ設立されたか」によって天と地ほどの差があります。
①「持分なし医療法人」(平成19年4月以降に設立)
現在新たに設立される医療法人は全てこちらです。 「持分なし」とは、設立時に拠出したお金に対する「財産権」がないことを意味します。 したがって、解散時の残余財産は、原則として理事長個人に分配することはできません。
定款の定めに基づき、国、地方公共団体、または他の医療法人(持分なし)などに帰属(寄付)させる必要があります。つまり、苦労して築いた財産は、最終的に「お国のために差し出す」ことになります。
②「持分あり医療法人」(平成19年3月以前に設立)
歴史ある法人の多くがこちらに該当します。設立時に出資した人は、その出資額に応じた「持分(財産権)」を持っています。 定款に出資額に応じた残余財産の分配規定があれば、解散時に出資者(理事長など)が財産を受け取ることが可能です。
「それなら良かった」と思われるかもしれませんが、ここには巨大な落とし穴があります。
「持分あり」の解散リスク。評価額の高騰と税金地獄
「持分あり医療法人」が解散し、出資者が残余財産を受け取る場合、その財産は出資者に対する「配当」とみなされます(みなし配当)。
長年の経営努力により、法人の内部留保(利益の蓄積)が数億円規模に膨れ上がっている場合、出資持分の評価額も莫大なものになります。 その結果、財産を受け取った理事長個人に対して、最高税率に近い所得税・住民税(最大約55%)が一時に課税されることになります。
「老後の資金のために解散したはずが、半分以上を税金で持っていかれた」という悲劇が実際に起こり得るのです。
解散ではなく「M&A(第三者承継)」という選択肢
このように、医療法人の解散は「持分なし」なら財産没収、「持分あり」なら多額の課税という、どちらに転んでも厳しい現実が待っています。
そこで、近年注目されているのが、安易に解散を選ばず、後継者を探して法人ごと引き継いでもらう「M&A(第三者事業承継)」という選択肢です。
地域医療の継続: クリニックが存続するため、患者さんやスタッフを守ることができる。
創業者利益の確保: 「持分あり」の場合、出資持分を第三者に譲渡することで、解散時のみなし配当課税(総合課税・最大55%)ではなく、株式譲渡益課税(分離課税・約20%)で済むため、手元に残るお金が多くなる可能性があります。
ハッピーリタイア: 借入金の個人保証から解放され、安心して引退できる。
記事のまとめ
医療法人の出口戦略は、株式会社とは比較にならないほど複雑で、高度な専門知識が必要です。
解散の難易度: 法律で定められた事由が必要であり、簡単ではない。
持分なし法人: 残余財産は国や自治体などに帰属し、個人には戻らない。
持分あり法人: 残余財産を受け取れるが、莫大な「みなし配当課税」のリスクがある。
M&Aの検討: 解散のデメリットを回避し、ハッピーリタイアを実現する有力な選択肢。
「自分の法人はどちらのタイプか分からない」「解散したらいくら税金がかかるのか試算したい」という先生は、手遅れになる前にご相談ください。定款や決算書を確認し、解散、持分放棄、M&Aなど、先生の状況に合わせた最適な出口戦略をご提案いたします。
コラムを書いた人
篠原 博之
行政書士・AFP
行政書士しのはら事務所 代表
個人税理士事務所・中小企業の総務部長・税理士法人のIT担当の経験を経て独立
バックオフィスのDXに注力している。
登録番号:第24080248号|東京都行政書士会 新宿支部所属
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